視点シリーズ10 生きづらい こどもたち

視点シリーズ10
生きづらい こどもたち

福島いのちの電話 評議員 内 山 清 一

 「子どもは親の鏡」、そして「子どもたちは社会の鏡」と言われる。大人がこの世の生きづらさを感じている時、子どもたちは、「大人の背中」をとおして、それ以上に深く、生きづらさを感じているのではないかと思う。その子どもたちを前に、私ども大人は、どんな「希望」を語っているだろうか?
 長いこと務めていた児童相談所の仕事は、毎日が「ドラマ」であった。
 心身障害・不登校・いじめ・非行・虐待など、親のみならず、子どもの「生きづらさ」が詰まっているともいえる多種多様の相談を受ける中で、時には、子どもの方が大人たちよりも深い「ドラマ」(人生)を演じて(生きて)いると思うことさえあった。
 児童相談所に勤務してまもない頃、「心理学的レポートは、その子どもの伝記を書くようにまとめる」と言われたことがある。
 そのためには、子どもの生活史の中にある内的真実を聴き取ることに、全神経を集中することが、子どもに向き合う者の大切な仕事ではないだろうか、と思っていた。
 やがて、子どもが、秘めておきたいと思っている過去について、何とか聞き出そうと構えるより、どういう自分であったら、子どもは自然に語り出すのだろうかと考えるようになった。
 そんな時、ある児童指導員が施設を辞めるにあたって記した、お別れの挨拶に出会った。
 「……子どもたちに何をしてあげられるか、ということ以上に、子どもたちにとって、どういう存在になり得るか、ということが大切であり、私たちの課題なのだとも思いました。子どもたちにとって必要なものとして在る、そんな在り方だけは見失わないようにしようと自身に言いきかせてきました。彼等の人生に立ち会い、寄り添う者でありたいと願ってきました。子どもたちとともに暮らすことは、彼等が、自身の意志と力でその生き方を見つけきり、開いていってくれることを、祈り待ち続けることでもあると思います。……」
 ここには、いつも子どもたちの生活の中に自分の身を置き、はからいではなく、あるがままの自分を示そうという姿勢がある。子どもにとって、自分のことを心配し、寄り添ってくれる人が、今、ここにいることを伝えるメッセージがある。いけないと思うことには、壁のごとく毅然として対していく覚悟がある。そして、子どもの成長を信じて待ち、自立を見守る祈りがある。
 虐待を受けた子どもたちのように、多くの「生きづらさ」を抱えて、自分はもちろんのこと、他者やこの世を信頼できないような子どもたち、つまり、こころが新たに育ちなおることが必要な子どもたちにとっての援助には、何をなしたか(「doing」)より以上に、目の前の子どもにとって、自分はどういう存在であるのか(「being」)が求められているように思う。
 子どもたちの大人を見る「まなざし」には、きわめて鋭いものがある。大人が子どもを見ている以上に、子どもは大人を見通している。目の前の大人が、本当に、自分をしっかり守ってくれて、細かい配慮を忘れず、ぶれない存在であるかどうかを、刺すように見ようとしている。
 子どもを育てるというのは、大人が腹を据え、苦労を覚悟することではないかと思う。親として、教師として、地域の住民として、大人という立場で、ひたすら子どもを信じて見守ることではないかと思う。
 大事なことは、子ども自身が、見捨てられていないこと、ひとりではないことに気づき、ありのままの自分でいいことを受け入れ、これまで生きてきた自分への自信と自己肯定感を持てるようになることだと思う。
 子どもたちの大人に向ける「眼刺し」が、これに応える大人からの「眼差し」によって、やがては「私は大切にされている」と感じられている「まなざし」になって返ってきてほしいと切に願う。
 「青春、朱夏、白秋、玄冬」という私の好きな言葉がある。一つの発達論(ライフ・サイクル論)ともいえるが、それは巡り来る人生のそれぞれの季節をそれぞれの固有の美しさにおいて歩み尽くすというイメージを与えてくれる。
 おそらく、青春を青春として、青葉が繁るごとく瑞々しく生ききった者こそが、充実した朱夏を迎えるのだろうし、朱夏を朱夏として、盛夏の太陽のように生き抜いた者こそが満足と充実の白秋を迎え、静かに奥行きのある玄冬を迎えるのだろう。
 子ども共々、それぞれの季節を生ききり、それぞれの季節の色を豊かに染め抜きたいものである。

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