11月14日付の東京新聞に取り上げられました。

日々論々

3.11後を生きる

「いのちの電話」6年目の取り組み

被災者の心の防波堤に

 

「古里へ帰りたい」「生きる目的がなくなった」。被災者であれば、愚痴のような内容でも話してくれていい―。福島県の社会福祉法人「福島いのちの電話」は3月から、東日本大震災や東京電力福島第一原発事故で被災した県民の悩みを電話で聞く「ふくしま寄り添いフリーダイヤル」を、毎月11日に実施している。

法人は自殺防止のための電話相談を受け付けているが、被災者が電話しやすいようにと新たな窓口を設けた。震災や原発事故関連の自殺者数は被災3県の中で福島県が最も多い。いのちを守る最後の防波堤になろうと、相談員たちの奮闘が続く。

 まずは簡単に「いのちの電話」について。始まりは1953年に英国人の牧師が設立した「サマタリンズ(良き隣人)」の活動と言われる。牧師は「自ら命を絶とうとする人は、その前に私に電話をください」と呼びかけた。たとえ電話でも会話を持つことで心の危機を脱することができると考えた。

活動は世界に広がり、日本では71年に「東京いのちの電話」がスタート。今では全国に52のセンターがあり、ネットワークでつながる。電話相談員はボランティアが担う。

「福島いのちの電話」は、96年に全43番目のセンターとして開局。場所は福島市内のとあるビルの4階にある。

 それにしても、震災から6年以上が経過した中、新たに「ふくしま寄り添いフリーダイヤル」を開局した理由はなんなのか。三瓶弘次事務局長は話す。

「現在、避難者は県内に1万8千人、県外に3万5千人いる。なのに、今年3月、避難指示区域外からの避難者らに対する住宅無償提供が打ち切られた。避難者の間では、世の中から忘れられるという危機感がまん延しています」

「気が弱くなっている人が多いせいか、一般の『いのちの電話』にダイヤルして通話中だったりすると、がっかりしてあきらめてしまう人が多いと聞いたのです。だから震災月命日の11日は、総力を挙げて被災者に向き合おうと決めました」

 3月以後、11日の相談日にかかってきた電話は計約50本。利用者は男性が多い。被災者のうち女性は、自宅から離れた復興公営住宅でも案外楽しく暮らす人が比較的多い。それに比べ男性は、部屋にこもったり酒に浸ったりなど、孤独を抱え込む傾向が強いという。

双葉町から埼玉県加須市に集団で避難した60代の男性。

「最初の2年間ぐらいは、頑張って生きようって皆で協力しあったよ。でも限界だ。疲れてみんなの気持ちはばらばらになった。町内会もなくなった。もう帰還は無理だろうな」

別の男性は「千昌夫の『北国の春』だって『別れてもう5年、あのに古里へ帰ろうかな』って歌ってるじゃないか。おれたちは、もう6年だぞ」

警察庁によると、被災3県(福島、岩手、宮城)の震災関連自殺者数は、2016年までに176人。このうち福島県では87人と半数を占める。

そんな被災者からの電話に対し、相談員ができることは「あなたは独りではない」というメッセージを送り続けることだ。

三瓶事務局長は呼びかける。「これから年の瀬を迎え、一段と古里が恋しい季節になる。寂しさが募ったら、ぜひ電話をしてください。きっと役に立てると思います」

(福島特別支局長)

「ふくしま寄り添いフリーダイヤル」は電0120(556)189。毎月11日午前10時から午後10時。

 

録音について
福島いのちの電話では、掛けてこられた方の相談内容をよりよく聴くために、相談員の研修の目的に限り、電話を録音しています。
①相談内容を、その他の目的に使用することは一切ありません。
②守秘義務により、相談された方のプライバシーを厳格に守ります。
③電話番号は、こちらに表示されませんので個人を特定することはできません。