～安心できる関わりをめざして～　会津大学短期大学部社会福祉学科　市川和彦教授

　わたしは10数年、障がいのある方たちの入所型施設や児童養護施設に身を置いてきましたが、当時、なぜ指導員や保母さん（援助者）っていつも怒っているんだろうと思ったものです。しかし、よく考えてみると援助者側に利用者を怒らせる原因が少なくないことに気づきます。まず短時間でも良いから話をきいてあげたら興奮せずに済んだのに、と思うことがほとんどです。ですから対人援助の仕事は、まず援助者側が怒りを沈静させることが第一歩であると考えます。次に怒りを沈静させるための具体的方法を福祉施設などでの対人援助者を念頭におきつつ、あげてみましょう。

 

１．自分について理解する（ツイカット・メモのおすすめ）

　まず自分が相手の言動に対しどのような反応傾向があるかを知っておくと良いでしょう。そのためのツールとして「ツイカット・メモ」をお奨めします。カッとしたことがあったら忘れないうちにメモするということです。

　内容は、①いつ、②誰に、何に対して腹が立ったか、③その理由、を簡単にメモしておき、あとで読み返してみます。そうすることで自分がどのような状況で腹が立ちやすいのか、どのような言動をとってしまうのかがわかります。

　あらかじめ、腹が立ちそうな状況が読めればブレーキを踏むことができます。

２．見通しを立てておく（腹を決める）

　怒りを爆発させる3種の‘‘ガソリン”は「突然」「恐怖」「孤独」です。相手が今日は暴れそうだな、と、ある程度予測がつけば心の準備や人の体制（職場のチームワーク）、時間の調整（今日は1時間この人と関わろう）が可能になります。そのためには相手の方の状況、心理状態について予め理解していることが求められます。 

３．モデルを思い浮かべる（対応の理想モデル）

　怒りが湧いてきたとき、『あの人ならどうするかな』『〇〇さんが関わるとどうして落ち着くのだろう』『あの人のように関わりたいな』と思えるようなモデルのイメージは、あなたの怒りの炎に水をかけてくれます（たとえばマザーテレサの笑顔や映画「リンカーン」で描かれたリンカーンの冷静さなど）。逆に『あの人のようには関わりたくないな』と思うような悪いモデルもあると参考になります（実際には周りにあまりいてほしくないですが）。

４．「非合理的な思い込み（イレイショナル・ビリーフ）」に支配されていないか

　たとえば、「食事は30分で終わらせなければならない」「子どもを指示通りに動かさなければならない」「この子を今日中に反省させなければならない」これらの思い込みに縛られ追い込まれて、怒りを相手にぶつけてしまうということがあります。頭に自動的に浮かんでくる思い込みが、根拠のない、意味の無い、そして利用者や子どもにとって利益の無い物であれば捨て去る勇気が必要です。

５．相手の肯定的部分を思い浮かべる

　実はこれが一番難しいかもしれません。相手を嫌いになってしまうと、これは偏桃体にインプットされてしまいますので、生理的レベルの問題になってしまいます。嫌いな相手の全てが嫌いになってしまうわけです。しかし、精いっぱい前頭葉を働かせて相手の良い点・評価できる点をさがし、メモしておきましょう（チョットイイ・メモ）。そしてときどき読み返してみましょう。少しずつ『結構いいところもあるじゃない』と思えてきたらしめたものです。

６．まず呼吸を整える（調息）

　怒りが湧いてくることに気づいたら深呼吸をしてみましょう。まず吐いて、それから吸います。その後静かな呼吸を継続させてみましょう。さて、その状態で大きな声を出して怒鳴るのは難しいでしょう（ためしてみてください）。それから声のボリュームを下げて、話し方のスピードをスローダウンし、身体中の筋肉を弛緩させてみましょう。これが身体から感情をコントロールする裏技です。

 

７．ストレスは有用なもの

　最後にとっておきの方法です。怒りの引き金となるものにストレスがあります。しかもストレス状態が長く続くと健康にも良くありません。しかし、実はストレスは悪いことばかりではないのです。健康に悪いのは『ストレスは悪いもの』と考えている場合です。逆に『ストレスは有用』、自分にとって必要なもの、自分を成長させてくれるもの、と考えると健康に悪影響を与えることがなくなります（ケリー・マクゴニカル：2014）。

　さて皆さん、今から実践してみてください。

（2014年、福島いのちの電話『春季公開講座』より）