震災10年 苦悩深く(6月19日付・中日新聞)

震災10年 苦悩深く

相談件数 10分の1に

「死にたい」20年度15%

福島いのちの電話

 福島県の社会福祉法人「福島いのちの電話」は、2011年3月の東日本大震災から10年間に応じた震災関連の相談状況をまとめた。17年に始めた震災専用フリーダイヤル分を含めると、11~20年度で計3451件に上り、東京電力福島第一原発事故などの影響の深刻さが浮かんでいる。

11年度に1068件あった相談件数は、20年度は計106件に。ただ、自殺傾向や死にたい気持ちをうかがわせる相談の割合は、11年度の7%から、20年度は15%になっている。

同法人によると、震災後半年は、余震や放射能汚染、失業や今後の生活への不安が多かった。その後行政の支援の不備、放射線関係の専門家への不信を打ち明ける相談は公的な支援体制が整うにつれて減った。

一方で家族が離ればなれになったことや避難先での人間関係を巡る相談が増え、孤独や喪失感の訴えが目立つようになったという。(片山夏子)

3.11…「鬱がひどい。自殺するのでは」「福島弁聞きたくて」

 東日本大震災と原発事故から10年となった3月11日、福島市内の「福島いのちの電話」センターに寄せられた相談は43件に上った。例年、この日には多くの相談があるという。

「震災後、体調が悪化し現在は鬱がひどい。自殺するのではないかと、自分でも不安」と60代女性。「10年前、小学生で遭った震災が怖くて今日は学校を休んだ」という10代男性も。

原発事故で避難が長期化し、帰郷を諦めた人は多い。「他県に避難し、鬱と対人恐怖症に。福島弁が聞きたくて電話した」(30代女性)、「避難者への風当たりが強く、針のむしろ。家族も不仲で職も失い、いっそ死んでしまいたい」(40代男性)などと、苦境を打ち明ける相談が目立つという。

復興が強調されるほど、悩みを口にできない人もいる。60代男性は「原発事故の悩みをどこに相談しても否定される。孤立し、自己嫌悪に陥っている」

福島いのちの電話の玄永牧子副理事長(84)は「事故直後は人とのつながりを感じるなど前向きな声もあったが、時間がたち、『不安だ』とか『苦しい』と言えないなど、誰にも相談できない人が増えている」と話す。

自殺対策白書によると、震災に関連する自殺者は20年までに240人。うち福島県は118人とほぼ半数を占める。

福島いのちの電話は17年、フリーダイヤルを設置。電話がつながらないことを防ぐため、2年前から予約制に。昨年からは予約を受け、相談員から折り返し電話をするように変えた。

三瓶弘次事務局長(69)は「電話をする気力もない人もいる。こちらから電話をかけることで『覚えていてくれた』と喜ばれる。忘れられるのは1番つらい。自殺に追い込まれる前になんとか話を聞くことができたら」と話した。

(6月19日付・中日新聞)

録音について
福島いのちの電話では、掛けてこられた方の相談内容をよりよく聴くために、相談員の研修の目的に限り、電話を録音しています。
①相談内容を、その他の目的に使用することは一切ありません。
②守秘義務により、相談された方のプライバシーを厳格に守ります。
③電話番号は、こちらに表示されませんので個人を特定することはできません。